万劫末代、永遠の恋  第伍話




















あの日から景吾は毎週侑士に会っている。

宴の時は抜け出せるが、下手をすれば客と布団との間に挟まれている時もある。

その場合はリョーマが景吾の代わりに侑士に物を届けてくれた。

渡す度、侑士は何故か哀しそうにする。

景吾にはその理由がわからない。

けれども侑士は必ず受け取りお礼を言う。

それで十分だった。

愛する人の役に立てているのだから。

自分が愛されているとは思っていない。

男抱かれてしか生きて行けない自分にどうして侑士が惚れてくれるだろうか。

だから、なのかもしれない。

侑士が哀しそうにするのは…。

彼は綺麗だから。

だから自分のように汚れた者から物を恵まれている事を本当は快く思っていないのかもしれない。

あの時の告白を侑士はどういう風に思って、どういう風に受けとめてくれたのだろうか。



ーどう思おうが、別に良いんだけどな…



拒絶されるのは目に見えている。

だから返事は聞きたくなかった。

ただ、自分と会ってくれているそれだけで十分。

弱く、醜い自分に嫌気が差す。




















「景、どうした。さっきから上の空ではないか?」

情事の後、裸のまま男に抱き締められていた景吾は意識を現実に引き戻す。

「いえ…先刻の旦那様との事を思っておりました。…あまりにも気持ち良かったもので」

心にも無い事を唇は紡ぐ。

好きでもない奴に抱かれて、何が気持ちの良いものか。

「そうか。相変わらず景は可愛い事を言う」

男はそう言いながら脇においてあった包みを開いた。

中から出てきたのは黄の色で染め上げられた着物。

一目で高価だとわかるそれを景吾に差し出す。

「景にあげよう。…着てみてはくれないか?」

「えぇ…」

景吾はすっと立ちあがると差し出された着物を素肌に纏う。

その姿は月光に淡く照らし出されとても扇情的で…。

しかし男は眉を顰めて小さく唸った。

そして景吾の腕を引き、再び自らの腕の中へと閉じ込めると羽織ったばかりの着物を強引に剥ぎ取る。

「お前にこの色はあまり似合わなかったな。別のものを拵えさせよう」

「では…あの着物は?」

ちら、と脱がされた着物を見る。

「あれは私が景に贈ったものだ。箪笥の奥に仕舞うなり他の遊女にあげるなり…好きにして良い」

それよりも、と男は布団に景吾を組み敷く。

「まだ時間はある…」

下卑た笑い声を聞きながら横目でジッと景吾は着物を見つめた。


























次の日、侑士が裏口にいつものように来た。

今日渡そうと思い腕に抱えているのは昨夜貰ったばかりの着物。

裏口の戸を開けばいつものように侑士が微笑んで立っていた。

「こんばんわ、景吾…」

「よぉ…来てくれてありがとな」

侑士の吸いこまれるような黒を見て、どこか安心する。

闇とは違う…もっと優しい黒の色。

「景吾、また持って来てん?」

景吾の抱えている着物を見て侑士が問う。

「あぁ、昨日貰ったんだけど…俺には似合わないって言われたんだよ」

着物を差し出し苦笑いする景吾を見つめる目がまた哀しそうに揺れた気がした。

「…あぁ、確かに景吾には似合わへんな」

黄の色が景吾の蜂蜜色の髪と蒼の瞳を台無しにする、そんな気がした。

「学校には行けてるのか?」

ふと景吾が尋ねると侑士は困ったように笑う。

「ん、まぁな…」

「良かったじゃねぇか」

自分の事ではないのに嬉しそうに笑った景吾を侑士はそっと抱き締めた。

突然の事にビクッ、と体を強張らせて景吾は上目遣いに侑士を見る。

「…景吾、次会った時に聞いて欲しい事があるんや」

真剣なその声色に分けも分からず景吾は頷いた。

それを確認すると侑士は抱き締めていた体を離した。

景吾を包んでいた温もりが消える。

「じゃあ…またな」

最後に景吾の髪をそっと梳き侑士は闇の中に消えて行った。

それを見届け、景吾は再び店の中へと入ろうとした。





「景…」





突然呼ばれた名前に景吾は肩を跳ねあがらせた。

心臓が酷く音を立てる。

恐る恐る振りかえる。


「…みや、び?」

「なぁにしとるんじゃ…こそこそと、いっつも」


雅…本名は雅治と言って借金の方としてここに売られて来たらしい。

同い年という事もあり仲の良い遊女の一人だ。

「雅…もしかして」

「ずっと前から知っとったよ。“忍足侑士”じゃろ?」

ずばりと名を言い当てられ、景吾は何も言えなくなる。

そんな景吾を見て雅治は溜息を吐いた。

「誰にも言わんから安心しんしゃい。…そんな事より、アイツはお前のこと騙しちょるよ」

「な…っ!?」

何を言われるかと身構えていた景吾だったが、あまりの内容に絶句した。

誰が誰を騙していると言ったんだ…?

「俺が相手しとる客にな聞いてみたんじゃけど…ここら一帯の学校には“忍足侑士”ちゅー学生は居らんそうじゃ」

雅治の言葉に景吾は目を見開く。



ーだって侑士は…学校に行ってるって言ったはず……



ただ、耳から入ってくる言葉を頭の中で整理するので精一杯で…。

「な、もうアイツに会うんは止めんしゃい?…景の為にならん。どうせアイツ、他の女と一緒に景から貰ったもんで仲良
く暮らしとるんじゃろ…」

慰めるよう、雅治は景吾の頬を優しく撫でた。

壊れ物を、扱うような手つきで。

「お前がこんな目に遭ぅとるんにアイツだけ幸せになるんは俺は嫌じゃ。今度会ぉたら俺が一発殴って…」

「いいんだ」

雅治の言葉を景吾の澄んだ声が遮る。

顔を上げ雅治を見つめる景吾の顔に憂いはなく、むしろ嬉しそうで…。



「俺は幸せになれなくても良いんだ。ただ、侑士が幸せになってくれる事が俺の幸せだから…」



それの、手伝いをしてあげたいだけなんだ。


「景…」

「雅、心配してくれてありがとよ」

こう言われてしまえば雅治がどうこう言える筋合いはない。

「景、口だしして悪かったなぁ…」

雅治はぎゅと景吾を抱き締めると、すぐに離して踵を返し裏口の戸を開け廊下の暗闇に消えた。

景吾もその後に続きすぐに姿が見えなくなった。
























「ごめんな、景吾……」





裏口に面する庭の塀の向こう、一人寄りかかっていた侑士。


ただ、静かに涙を流した。























-------------------------------------------------------
●あとがき

何故か仁王さん登場。…すんません、私が好きだからです;
忍足よりもどうしても他の人が目立ち過ぎです。
そろそろラストに近づいてきました…気がしないでもないです。(どっち)
最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。

あ、そういえば彼等の源氏名は
・景吾→景(ひかり)  ・リョーマ→涼(すず)  ・雅治→雅(みやび)
のつもりです。
今更ですよね…;