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万劫末代、永遠の恋 第参話 二人の周りだけ世界が変わる。 周りの雑音が消える。 何も、お互い以外見えない。 「…ゆ、し」 まさか、と思いながらも記憶に鮮明に残っているその名を呼ぶ。 心臓が、酷く煩い。 「あぁ、やっぱり景吾やったんか」 にこ、笑うと石に腰掛けている景吾の前まで歩み寄る。 「長いこと会わんうちにえっらい別嬪さんになってもうたなぁ」 「いつ、こっちに戻ってきたんだ?」 「つい2ヶ月前や」 この男は忍足侑士。 景吾が遊郭で働く前の知り合い。 数年間だったが家が近く良く遊んだりした。 「こっち戻ってきてすぐ景吾に会おうと思うて家に行ったんやけど…」 そこまで言い、侑士は言葉を止める。 きっと近所の人に事情でも聞いたのだろう。 「今、どこに住んどるん?」 「…この、近くの茶屋だ」 言いたくなかった。 でも、彼の性格は誰よりも良く知っている。 ここで適当に誤魔化しても、彼は結局自分の居場所を突き止めるだろう。 ここらの茶屋といえば一つしかない。 そして侑士はそれがどういった場所か知っているのだろう。 侑士の表情が曇ったのを見て、景吾はふ、と笑う。 自分を、嘲笑うかのように。 軽蔑された、そう思う。 「汚い、だろ?でもこうするしかなかった。生きて行く為には…この方法しかなかったんだ」 そう。 こうでもしなければ…この体を売らなければ今頃自分はとっくに野垂死んでいた。 むしろ、今の自分の境遇に感謝すべきだ。 体と引き換えに、衣食住…衣に至ってはそれはもう庶民では手に入らない豪華な着物を身に纏っているのだから。 「汚くなんかあらへん」 紡がれた言葉に目を見張る。 目の前の侑士は穏やかに微笑んでいる。 「景吾は汚くなんかあらへん…」 頬に触れた侑士の指が冷たい。 ーいや、…自分の頬が熱いだけか 「っ、お前こそ今何してるんだよ…」 頬が熱いことがばれない様に慌てて話題をかえる。 「ウチも両親が死んでもぉて…こっちで勉強しようと思うてたんやけどお金がないからコツコツ働いとるんや」 確かに彼が身につけているものはどれも粗末なものばかりで…。 ふと、景吾の頭に過ぎる。 「…侑士、今時間あるか?」 「へ?…ぇ、まぁ」 「じゃあちょっと来て欲しいところがあるんだ」 景吾は立ち上がり、侑士の袖を引っ張る。 「何やってるんすか、アンタ等」 背後から突然聞こえた声に慌てて振りかえる。 「ぁ、リョーマ…」 「どうしたの、景吾?つーか…そっちの人、誰?」 明らかに不審そうにリョーマは侑士を見上げた。 「リョーマ…祭りは楽しんだか?」 問いに答えず、逆に質問する。 「え、ぇ…まぁ」 「じゃあ帰るぞ!」 リョーマの着物も反対の手で掴んで引っ張り、二人を連れて道を戻って行く。 そして、茶屋の裏に繋がる人気の無い道を進んで行く。 分けがわからないリョーマと侑士は顔を見合わせた。 着いたところは茶屋の裏口。 滅多に使われる事の無いその扉は蜘蛛の巣が所々についている。 「リョーマ、俺の部屋から…客に貰った簪を二・三本持って来てくれねぇか?…誰にも、見つからずにな」 「はぁ?…いいっスけど」 不思議そうに首を傾げながらリョーマは古いその扉を引く。 先は暗く、リョーマの姿はすぐに見えなくなった。 それから数分も経たず、リョーマは再び姿を現した。 手には、美しい装飾の簪を三つ。 「どれかわかんなかったんで適当に持ってきたんですけど…」 「いや、それでいい。…ありがとよ」 簪を受け取り髪をくしゃ、と撫でてやる。 そして振りかえり、侑士に簪を差し出した。 「これ、質屋に持って行ったら売れるって聞いた。…これを売ってそのお金で勉強してくれ」 景吾の言葉に侑士は驚いた。 だかすぐに眉を寄せ首を横に振った。 「あかん、それは景吾が…体を売って稼いだもんや。それ売って学校行くなんて…」 「俺はこんなもの必要ねぇ。だから侑士の役に立てて欲しいんだよ」 断わろうとしても景吾はしっかりと侑士の手に簪を握らせる。 放さない様、ぐっと。 いくら返そうとしても景吾は絶対に「はい」とは言わなかった。 どうしても、受けとってほしいのだ…と。 しばらくその言い合いが続いたが先に侑士が折れた。 しぶしぶその高価な簪をしまう。 「なぁ、なして俺の為にここまでしてくれるん?」 二人の繋がりは3歳から、侑士が大阪に引っ越すまでの僅かな時。 それだけなのに何故景吾は自らの体を売って得たモノを自分にくれるのかが侑士には分からなかった。 すると、景吾は穏やかに…ふ、と微笑む。 空の月が、薄い雲に隠されてふんわりとした光りを地に降らせる。 「侑士の事が…好きだから」 ずっと、昔から。 そして…今も。 世界に、たった二人だけ。 そんな感覚に侑士は囚われる。 侑士はただ、ぽかんと口を開けたまま立っている。 何も、言えずに。 「あ、返事は聞きたくない…。ただ、俺の気持ちだけわかって欲しかったんだ」 侑士の肩をそっと押して、背を向ける。 「ここならこっそり会える。…また、気が向いたら来て欲しい」 それだけ、最後に口にすると景吾はリョーマを連れて表通りに戻って行った。 侑士は着物の上からそっと簪に触れる。 ただ呆然と、景吾の後姿を見送るので精一杯だった。 続 ------------------------------------------------------- ●あとがき ようやく三話目です…。 思ったよりも進まないなぁ。というか私が書くのが遅いだけ; なんとか忍足が出てきました! これからは話がちゃっちゃと進む…はずですv 戻 |