Valentine's Day of love










まったく、俺はどうかしているのではないだろうか。



一生着る事はないだろうと思っていた布地を手にし、跡部は頭を抱える。

彼が手にしているものは白いフリルのついた可愛らしいエプロン。

跡部家に仕えているメイドから借りたものだ。

そして彼が今現在いる所は台所。

目の前には大量のチョコレート。

その甘い甘い、香り。

様々なお菓子作りの器具。

「…アイツが、あんなこと言うから」

それらを見ながら、跡部はここには居ない人を想い瞳を閉じる。












数日前の部室。

バレンタインデーも間近という事で部室は盛り上がっていた。

「今年こそ宍戸に勝つ!」

「それ、小等部の頃から毎年聞いてるぜ?」

「ッ、くそくそ宍戸め!!」

「でもさー、二人共そんなに変わらないよね」

「……ウス」

「確か日吉にも負けてたC−?」

「う゛;何で日吉の方がモテるんだよっ!」

「下克上ですよ、向日先輩。宍戸先輩」

わいわい騒ぐ声。

その少し離れたところで跡部と忍足はソファに座っている。

部長である跡部が鍵を管理しているため、皆が出て行くまで帰れない。

忍足は恋人である跡部を待っている。

待たされている立場の跡部はその騒がしい声に段々とイライラして…。

「…おい、テメーらいい加減帰りやがれっ!!」

ついに怒鳴る。

しかしそんなことは慣れっこなレギュラーメンバーは会話を止めようとはしない。

「やっぱり今年も跡部が一番なんだろーな。んで次点が忍足」

分かりきってんだよなー、と宍戸がぼやく。

「跡部はいつものことだから驚かねぇけど、…去年の忍足もすごかったよな」

「おっC−、今年もまた高等部の先輩達に追っかけられるよ〜?」

あはは、とジローが笑いながら忍足に視線をやる。



「あー…俺な、今年は誰からも貰わんことにしてん」



忍足の発言に全員、目を剥いた。

隣に座っていた跡部も驚き、忍足を凝視した。

「え、えぇ!?何でだよ!!」

「下駄箱とか机の中に入ってたらどうするの?」

「悪いけど、ゴミ箱行きやな」

きっぱりと言い放つ忍足。

「それ、女の子が可哀想じゃねーか?;」




「でもなぁ、他の子からチョコ受け取ったら…恋人が嫉妬するやん」


その言葉にドキ、としたのは忍足の恋人である跡部。

嫉妬…とまではいかないが、確かに忍足が女に囲まれ笑顔でチョコを受けとっている図は気に食わないだろうし見た
くない。

「他の女の子から何百個チョコ貰うより、好きな子からの一個のが嬉しいやんか」



ちら、と。

視線が絡む。


その時の、忍足の顔が……


脳裏に焼き付いて。
離れなくって…。














そう。

あんな風に言われたら笑われたら…。







「…よし、作るか」

滝から借りたお菓子作りの本を広げる。

もちろん開いたのは「チョコレート」のページ。

「とりあえずトリュフだな」

腕まくりをし、チョコレートの山に手を伸ばした。




















「…ッ、どうして出来ねぇんだよ」

目の前に広がるは、あまりにも無残な光景。

あんなに綺麗だった台所はありとあらゆるところにチョコの血痕で茶色に染まり、そこら中に調理器具が散乱してい
る。

あの後、跡部は様々なチョコレート作りに挑戦した。

しかし一向に成功せず…。

時計の短い針はすでに12のところを指していた。

残っているチョコレートの板はあと1つ。

「諦めるかっ」

その最後のチョコを手に取り、跡部は再び台所に向かった。



























翌日。

忍足は宣言通り、誰からもチョコを受け取ってなかった。

呼び出しにも応じず、ただ自分の教室で友人と話をしているだけだった。

その姿を遠目に見つめ、跡部は鞄を持って部室へと急いだ。

ちょうど、昼休みを告げるチャイムが学園内に鳴り響いた。








「なんや?こんなとこに呼び出して…」

忍足は指定した時間ピッタリに部室に現れた。

後ろ手に隠した箱を軽く握り締める。

「お昼、食べへんの?」

「…今日、バレンタインだろ」

「そうやね。景ちゃん、たくさん女の子達に囲まれとったやん」

質問に答えずに話しかける。

忍足はそれに気分を害した様子もなく返事を返す。

「それはお前もだろ」

「でも俺は受け取ってへんよ」

微笑みながら歩み寄り、跡部との距離を徐々に縮める。

「聞いとったやろ……俺は女の子から何百個貰うより景ちゃんからの一個の方が大切やって…」


そ、と頬に触れる。




「っ、…ぉ…した、りっ」

「…なん?」

なんとか唇を動かし、言葉を紡ぎ出す。

忍足は手を頬から離し、その手で代わりに髪を梳く。



「これっ、…やる!」


勢い良く忍足の胸に突きつけたのは。

ピンクの包装紙に赤色と橙のリボンで飾り付けしてある可愛らしいラッピングのされた小箱。

「ちょっと……形、変になっちまったけどっ//」



一生懸命作ったから…。










「…忍足?」

勢い良く渡したのはいいが、忍足の反応がまったくない。

いい加減不安になってきて…跡部は下に向けられていた視線を上げた。

「お、おい…?」

そこにあったのは。

跡部以上に頬を赤く染め、箱を手にしながら呆然と突っ立っている忍足の姿。

「…あかん」

「あ?」

「どないしよ……メッチャ嬉しい//」

口元を押さえて嬉しそうに箱を眺めた。

「ありがとな、景ちゃん//」

幸せそうな微笑を浮かべて跡部を抱き寄せ、頬に優しくキスをする。

その忍足の表情を見て跡部も微笑んだ。








「せっかくやし、次の時間サボらへん?」

「…どーせ行かせる気なんかねぇんだろ」

「当然やろ」




近づく吐息。







甘い甘いキスを……。

この瞬間に。








〜FIN〜



-----------------------------------------------------------------------
●あとがき●

無理矢理間に合わせたバレンタイン小説。
色々なところ、話が繋がってません;;…スミマセンm(_  _;)m
結局べさまはどんなチョコを作ったのか…。
まぁ、これは…どこかでメモ程度に後ほど;


※このページのどこかからべさまの作ったチョコの詳細(?)の小話に飛べます。