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万劫末代、永遠の恋 最終話 景吾を身請けしたいと申し出たのは貿易業で有名な鳳の家の息子らしい。 景吾自身、何度か会った事がある。 珍しい、銀の髪の少年。 首からは十字架の首飾りをぶら下げていた。 数回だが買われた事もあった。 けれども行為に及ぼうとせず、ただ、時間までずっと話をしているだけだった。 変わった、けれども、温和で優しそうな少年…そんな印象だった。 ーあの人が、俺を買おうとしているような…そんな事は無いと思っていたんだけどな。 物思いに沈んでいると店の主人の呼ぶ声が玄関のほうから聞えてきた。 慌てて荷物を掴む。 落ちないよう、気を付けながら階段を駆け下りる。 玄関に向うと主人は例の少年と話していた。 恐る恐る彼の前に行き、自分よりも高いその人を見上げた。 「お久しぶりです、景吾さん」 目があうと、少年ー…長太郎はにっこり笑って景吾に手を差し出した。 「では行きましょうか」 「…はい」 自分よりも大きなその手に自分の手を重ねる。 その手に引かれるまま、店を出た。 最後に一目、と店を振り返った。 視界に捕らえたのは二階のとある一室から景吾を見送る遊女等。 雅治も、リョーマも居た。 ーありがとう… 声には出さず、口の動きで伝える。 ふいに目頭が熱くなると同時に前を向きなおす。 涙を見せたくはなかった。 そして、再び歩き始めた。 そんな景吾を長太郎はただ、微笑みながら見つめていた。 そのまましばらく河原沿いを歩いていた。 そこには何本もの木が植えられている。 春には桜も満開になって、とても美しい風景になる。 そう、長太郎は教えてくれた。 ふと、長太郎は河原沿いを歩いて来た中でも一番大きいのではないかと思われる桜の木下で足を止めた。 同時に景吾も足を止める。 「…景吾さん。俺は初めて貴方を見たときからその美しさに心惹かれて来ました。今でもそれは変わっていません」 けれども。と長太郎は続ける。 「でも、いつもどこか…心にぽっかりと穴が空いてしまっている様にも見えたんです」 心の、穴…。 景吾は呟く。 きっとそれは…、アノヒトの事? 柔らかな笑顔を景吾に向け、なおも長太郎は話す。 「ですから…貴方を幸せにしてあげたい。そう、ずっと思ってました」 「…相変わらず、優しいんだな」 ぽつ、と呟いた景吾に長太郎は目線を合わせる様に屈んですっ、と景吾の頬を撫でる。 澄んだ瞳。 目を見ればわかる。 長太郎は…本当に心が真っ直ぐだ、と。 この人ならば…、あるいは。 頬に触れていた手が離れる。 「あぁ、ちょっと待っててもらえますか?」 すぐ戻ります、とそれだけ言うと長太郎は景吾をその桜の木の下に残して掛けて行った。 残された景吾はただ、ぼーっと太陽に輝く水面を見つめていた。 反射する水面を見つめながら、幼き日に思いを馳せる。 ー…侑士と、ここに似た場所に来た事がある。 数瞬、景吾の目には幼き日の思い出が映っていた。 けれどもそれも、景吾は自ら振り払うように首を軽く振った。 侑士を忘れる。 その為に景吾は身請けの話に首を縦に振ったのだ。 いつまでも女々しく思いに耽っている自分を叱咤する。 けれども、目を瞑れば瞼の裏に焼きついている。 ー侑士の姿。笑顔。 耳元にこうも鮮やかに残っている。 ー侑士の声。息遣い。 忘れなければならないのに。 想いは正直。心は素直。 どうして、愛しい人を忘れる事が出来ようか…。 「ゅ、…し、……侑士っ、…」 痛み出した胸を両手で押さえながら、ゆっくりと、言葉を紡いだ。 「お呼びですか、お姫さん…?」 風に乗って、聞こえた声。 それと同時に感じた背中にある、覚えのある温もり。 体に巻きつく、その腕。 驚きに体を跳ねらせ、首をゆっくりと動かし後ろを見る。 視界に広がる、黒…。 顔が、近い…。 「ゆ…ぅし?」 「ん?何や…景吾」 それは、景吾が彼を想うあまりに見えた幻ではない。 耳に直接響くその声は、幻聴などではなく。 まぎれもなく、本人。 なぎれもなく、ここに居るのは侑士で…。 ずっと、ずっと想い続けてきた人で…。 「さ、一緒に行こか?」 「え…でも、俺は…」 もう、長太郎に買われた身だ。 いくら愛しい人に促されても足が動かない。 「あの…鳳家の人に買われて……」 俯く景吾の頬に侑士はそ、と唇を落とした。 「俺な、景吾が体売って…辛い思いをいっぱいしてきて得たお金で学校行けても嬉ない」 ーせやから…。 「せやから、鳳に頼んで景吾の稼いだお金で景吾をあの店…あの鳥籠の中から出して貰ったんや」 顔を上げ、驚きに目を見張る景吾を優しく腕の中に閉じ込める。 「長太郎とは…祖父の関係でちょっとした知り合いでなぁ。遊郭にも行った事もない俺がいきなりあの店一番の花魁 “景”を身請けしたいと言っても無駄やろ思ぉて長太郎に頼んだんや」 侑士の突然の申し出を長太郎は一瞬驚きはしたが快く引き受けてくれた。 そして景吾から貰った物を売って、それでも足りなかった分のお金も長太郎が出してくれたらしい。 「景吾さんを…幸せにしてあげて下さいね」 人の良い彼は、そう言った。 「景吾、次会った時に聞いて欲しい事あるって言うたやろ?…聞いてくれるか?」 真剣に、あの時のように真っ直ぐ見つめられる。 目が逸らせない。 その、黒の瞳に惹きつけられる。 「景吾が好きや。ずっと幼かったあの頃からお前だけの事を想うて来た。…だから、俺とずっと一緒に居って欲しい」 「ほんと…に?」 「あぁ、景吾に誓って…」 首筋に口付け。 くすぐったくて嬉しくて…とても熱い。 景吾は視界が歪むのを感じる。 頬が、濡れてゆく。 「俺も…、ずっと侑士と一緒に居たい」 着物の袖で涙を拭われる。 体が侑士の温もりでいっぱいになる。 唇が、深く…重なり合う。 「もう、離さへん…」 「景吾、愛しとるよ…」 ざあぁ、と草木がざわめき立つ。 風は、吹き抜けた。 幾年の時を経た…心が、想いが。 今、通じる。 その、恋人達への「幸せに」という… メッセージ 想文を込めて……。 終 ------------------------------------------------------- ●あとがき ようやく「万劫末代、永遠の恋」が完結しました!! 長かった…のかな?; とりあえず無事完結出来て良かったです! えっと、これからは暇があれば番外編みたいのを書いていきたいです。 跡部と忍足だけじゃなくて他のキャラの話とかも書きたいなぁ。 なんにせよ、ここまで読んでくださった方! ありがとうございましたm(_ _)m 戻 |