金木犀


























現代文の授業担当者に急な出張が入り、跡部のクラスの5時間目の授業は自習となった。

自習といっても配られたプリントを1枚だけであったため、ほとんど全員が10分程で仕上げてしまっていた。





そして今現在、教室内は自習を終わらせた生徒達が思い思い騒いでいた。


窓から差し込む光に思わずうたた寝している者。

友人とおしゃべりを楽しんでいる者。

ケータイでメールを打っている者…、と様々。


そんな中、跡部は窓際の後ろの方の席に座り、窓の外の景色をぼんやり眺めていた。

ちょうどこのクラスの窓は四季折々に移り変わって行く美しい自然がみられる中庭に面している。

開かれた窓から心地よい風が入り込み、淡い黄色のカーテンを揺らしている。












ただボーッとしている時間が惜しい。

そう感じ、跡部は何度も読み返した事のある古い洋書を鞄から取り出そうとした。

その時、ふとズボンのポケットの中で震えているものに気がついた。

鞄を開けようとしていた手を止め、ポケットの中に入っているケータイを開く。



『メール 1通』



ー一体、授業中に…誰だよ


不審に思いつつもメールボックスを開く。

そして、表示された名前に跡部は溜息をつく。



『送信者:忍足侑士

 本文 :跡部のクラス、今自習やろ?一緒にサボらん?

     部室で待っとるなぁv』



さっと目を通し、短い返事を送ると迷うことなく跡部は立ちあがり、教室を出た。




























当たり前だが、どのクラスも授業中で校内はあまりにも静か過ぎる。

グラウンドとは正反対の場所にある部室。

正レギュラー専用の部室へと足を向かわせた。

ドアの前で立ち止まり、ドアノブを回す。

やはりというか…鍵は開いている。

ドアを開くと見なれた顔が笑顔を向けて手を振ってきた。

「思ったよりも早かったなぁ」

「テメェ…何授業サボってんだよ」

暢気に椅子に座っている忍足を睨みつける。

「つーかなんでうちのクラスが自習って知ってたんだよ」

「休憩時間に国語のセンセーが学校出てくの見てん」

「…なんでうちのクラスの時間割知ってんだよ」

「秘密やv」

おいでおいで、と忍足は手招きをして跡部を近づかせる。

そして二人の距離があと数十センチと迫ったところで忍足は急に跡部の腕を引っ張った。

「っ、わ!?」

思わず跡部は忍足の腕の中へと倒れこんだ。

瞬間、鼻を掠めた香り…。

「…跡部?」

くん、と鼻を鳴らし制服を嗅ぎ始めた跡部に忍足は不思議そうに首を傾げた。

無意識の内での行動だったのか…跡部は忍足の声に吃驚したような表情を見せた。

そしてバツが悪そうに俯き、言った。

「あ、あの…な。甘い香り、したから…」

「甘い香り?」

「そう、…教室もそんな香りしてたから」

跡部に言われて忍足も腕を鼻に近づけて少し嗅いでみた。

そして、あぁ…と一人納得したように呟き微笑む。

「これな、金木犀の香りやん」

「…あの、オレンジの小さな花?」

「そう。中庭にいっぱい植えてあったやん?俺もさっき中庭通ったし…香りが移ったんやな」

「そうか、よかった…」

忍足の答えを聞くと、跡部は安心したように笑った。

その発言にまた疑問をもったのか、忍足は眉を寄せ難しい顔をした。









そうだよな…。

考え過ぎた…馬鹿みたいだな、俺。



ー忍足が、浮気なんかするわけねぇのに…




跡部と付き合う以前の忍足からは、想像も出来無いだろう。

こんなにも、一人の男に執着してしまうなど…。







「忍足、俺の事…愛してる?」

「当然やん…いきなりどないしてん?」

「…何でもねぇよ」





そう…。

貴方はただ、俺の体を優しく包み込んでくれるだけで良い。





「…俺、この香り気に入った」

「ほな後で中庭の金木犀の花、少し貰ってく?」

「良いのかよ…」

「こっそりや、こっそり…」

お互いに顔を見合わせて、笑い合った。













貴方から注がれる、溢れるほどの愛情は…。

確かに、真実なのだから。









また、どこからか…金木犀の香りがした。



















〜終〜



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●あとがき●

途中から自分が何を書きたかったのか良くわからなくなってしまった;
ファイル漁ってたらこの話の初めの部分しかなかったので完結させてみたけど…文章、繋がってるのかなぁ、これ;
とりあえず少し不安になる跡部様を書きたかったのと、金木犀が好きなので(無理矢理)あわせてみましたv
…今の時期、金木犀はもう花は落ちてますよね?
少し遅かったか…残念。