並みの風では、まだ散らないほどに若々しく咲いた強い桜。

その下で、俺たちはこれから何度会えるのだろう?

空も見えないほどに覆われた花の本、誰よりもその花の似合う彼を待つ。








朝桜








氷帝の大学内のキャンパスの街路樹は桜並木だ。
高等部は銀杏で、中等部は梅で。小等部は桃だったはずだ。
小等部に上がる時に桜と梅と桃の花の区別がつくようになったことを思い出したのは先日。
雑学がすきなあの男らしくちいさな小話と共に紡がれる話は嫌いじゃない。
朝の、人も大して見当たらない。この時間を二人でテニスコートへいく時間がとても大切だと近頃特に思う。



中学時代に忍足の家から通り道に使われていた公園の桜道は時代と共に、年々数が減っていった。
それでもあの圧倒されるトンネル状の桜は健在で、ほんの数日間だけだけれど毎年忍足と歩く。
気がつけば俺たちは大学に進学して、半同居から完全に同棲に近い状態になった。
医学部に進学した忍足と、経済学部を選択した俺は、こうした僅かな時間を大切にできるようになった。
それでも時折行き違いもあるけれど、彼だからこそ分かり合えているのだろう。そう思う。



まだ朝は肌寒くて、春用の手袋は家に忘れてきて手はコートの中で保温されている。
それを当然のように忍足はコートの中に手を突っ込んできて手を握ってくる。




「侑士、冷てぇ」
「景ちゃんの手ぇ温かいもん。少しぐらい分けたってや」




軽く笑ってそのまま気にせず歩き出すから、俺もそれに合わせて慌てて歩く。
俺よりも冷たいくせに手を入れてくるから、正直冷たくて顔を顰めるのだけれど、こいつは聞かない。
時期にこの温度にもなれてしまうのだから、それはもう慣れとしかいいようがない。




「愛やんなぁ」
「なきゃこんなことしねーよ」




昔の俺たちは、きっとこんなことは言えないだろう。
お互いに一杯一杯で、自分を崩すことを極端に恐がっていたから。
こんなにも素直に言えるようになった自分が不思議だけれど、当然という気もしないではない。
雲とは違う白んだ空が、いくつモノ建物に阻まれて、淡い青をしずかに強めていく。




「今日は遅くなるから、堪忍な」
「・・・昨日言ってたから覚えてる」




本当に、自分の将来へと繋がる技術を確実に身に付けていく彼。
これから多くの人を助けていくこの手を独占し続けるまで、あとどれぐらいなのだろうかと思った。
自分を愛でるこの腕が、手が、この男の全てが
自分の見えないところで知らない誰かに触れられるのは、厭だと今でもそう思う。
特にそんな疎ましい感情を抱くとき。どうしようもなくみっともなくなりそうなとき。
必ず自分を抱き締めて、視界も触覚も全部、彼で埋め尽くしてくれるから。
だからこそ、俺は彼を好きでい続けられて、我慢も覚えられるようになったのだろう。
互いが互いを離せないとわかったあのときから、これはずっと続いてる。






「何から謝ればいいのか、わからんようなる」



突然に沸いた隣の声に意識を戻した。
苦笑いを浮かべている限り、俺が意識を自分にむけていなかったことに対してのようだ。
忍足が片方の手で、俺の髪をなでた。



「それがわからんから、俺はお前に何を謝って何に礼を言えばいいのかわからんのや」
「何だそれ、俺の方がわけわかんねぇよ」
「最もやな。そやな、例えて言えば、これからの時間に対してやろか」



30メートル先のテニスコートは、まだ早いためか誰もいないよう。
背負っているテニスバッグを背負いなおしながら忍足は続けた。



「俺の全部の時間をお前にやれんのが悔しいてならんから」



彼を俺にくれたあの日。
全部、一つ残らず俺のものにしたいと泣いたほどにぶつけるような愛しか示せなかった中学時代。
昔より自由になったのか、それともより束縛されるようになったのか。
そんなことはわからない。少なくとも、これから先、失うものの方がきっと多いことは確かなだけで。




「でも、それでもお前は俺のことを好きやって言うてくれるから。
 どんな俺でも、お前は俺を許してくれて、お前の未来も全部、俺に託してくれたから」




だからありがとうと伝えたいのだと、四六時中。
零れる朝日を薄く浴びつつ微笑んで、忍足は言った。


そんなに、俺はお前の思っているほど綺麗なものじゃないのに。
そんなに、綺麗なだけの俺じゃないこともわかっているくせに。
そんなことばかり言うから、俺はお前のことが好きで、好きで、どうしようもなくなるんだ。




「俺は、お前の全部が欲しいけれど。
 でも、俺はお前の未来を奪う気も決める気もない」
「ちゃうよ」




計ったかのように吹いた一陣の風が、忍足の髪を薄紅の花と共に散らす。
その風に目を細めながらも俺から目線を外さずに忍足は言った。



「俺はお前と一緒に居たい。俺はお前に合わせてるつもりで今を選んでへんよ。
 俺は、一緒に居らんと幸せになれへんから、今、ここに居るんよ」



一見、俺を縛り付けているように見える彼を、実は縛り付けているのは俺だと悟っていた。
だから少しでも、彼を戒めて、苦しめるものにはなりたくなくて、それだけで。
本当は。
本当は、誰よりも何よりも俺だってそれを願わない日はないのだと。
お前の全部が欲しいのだと、今だってそう思うのに。
あの日、お前が言ってくれた言葉だってしつこく覚えているというのに。



「・・・っ甘やかすな!」
「俺が甘やかすんは、お前だけやから」



黒の中にまばらに添えられた花弁を掬い捨てて、俺はコートへいそいそと歩き出した。
いまだ慣れないんだ。
こいつの、俺を溶けてしまうほどに甘やかして、この声でそれよりも甘い言葉を囁かれることに。



「景吾、逃げたらあかんってば」
「俺は逃げてねぇ!!」
「そうやってもう足は逃げてんやろー」



後ろから、確かについてくる忍足を感じ取れる程度の幅で俺は急いた。
残り僅かな二人の時間なんてことも忘れてしまうから、だから早く。
これ以上何か言われたら、どうすればいいのかわからなくなっちまうんだから。





……正面切って、この男のような気障で臭いセリフをいえないんだよ。俺は。












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異界様へサイト設立&相互おめでとー小説でございます。
いや、本当に今さらだけで御めでとう御座いますーv
これからも多方面で宜しくお願いします(笑)
駄文ですが、よければもらってくださいませ;


2005.4.8.   鬼神あかね

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あかね様から素敵小説頂いてしまいましたーv
いやいや、相変わらず素晴らしい忍跡でv
その文才、今度分けてください。(切実)
サイト設立しただけでこんな素敵な文を頂けるなら何回でも設立します!(いや、意味わかんないから)
こちらこそ、色々とよろしくネ★
それでは、本当にありがとうございましたぁ!(ペコリ)