The president's love
























光り輝く太陽に照らされた都市部のオフィスビルの群。

どのビルもあの、限りなく高く遠い空へと向って伸びている。

その中でも一際高いビル。

その最上階のある一室で騒ぎが起こっていた。










そこは社長室。

白を基調とした何処か寂しさの感じられる、そんな部屋。

そこに見えるは二つの影。

「テメェ…また大事な会議をサボりやがったな!?」

眉を吊り上げ、仁王立ちしているその人は目の前の社長椅子にのんびりと座る人物を睨みつける。

ある意味殺気を含んでいるのでは、と思わせるほどの剣幕だ。

「いややなぁ〜、別にあの会議は俺がおらんでもちゃっちゃと進められるやつやったやろ?俺は無駄なことはせぇへ
ん主義なんや」

「何が無駄だ!お前が来なかったせいで俺が怒られたんだぞ!?」

「へぇ…?俺の景ちゃんを怒れるほどの身の程知らずが居ったん?そいつは首やな」

「バカかっ、テメェは!」

この会社の社長、忍足侑士は物凄い剣幕で怒鳴りつづけている自分の秘書である跡部景吾を見る。

この会社は跡部財閥の支社であり、名の通り社長秘書の景吾は跡部財閥の総帥の孫にあたる。

本来ならば跡部の血を引くものが社長を任される筈なのだが、まだ跡部は15歳の少年だった。

例え彼が12歳という若さで国際的にも有名な大学を卒業していたとしても如何せん経験不足。

だからせめて、法律で成人と認められるまでは社長秘書として間近で社長の仕事を見せ、勉強させようと跡部財閥
の総帥は考えたのだった。

けれども跡部が遣えることとなったこの男、忍足はどうもこの出来過ぎる秘書に仕事を任せてしまう。

信頼故か、それともただ単にサボりたいだけか…。

忍足に遣え早1年。

跡部は頭を抱える毎日だ。

「とにかく!この書類だけはまとめておけっ!!」

「えー?そんなん俺がやるよか景ちゃんのが得意…」

「やれ!!」

机に大量の書類を叩き付け、絶対に逃がすかという風にスーツの袖を掴む。

そんな跡部にこれ以上やる気のない発言をしてもますます怒らせるだけだ。

忍足はダルそうにはぁ、と深い溜息をついた。

そして緩慢な動作で書類を手に取り、目を通し始めた。

その様子に満足したか、跡部も自分の仕事に取りかかる。

自分の…と言っても本来は忍足が全て一人でするべき仕事であったものを手伝っているだけだ。

先週の総会の資料と意見のまとめ、一昨日にあった支社訪問についての資料。

さらには忍足が昨日サボった会議の詳細のまとめ。

それらを難なくさっさとこなしていく跡部を見て忍足は思う。



ー別に俺の下に居らんでもすぐに社長にしたればえぇんに…ほんま、総帥も酷い奴やなぁ…。



経験不足だろうが、この状況はそれでも27歳という若さで社長となった忍足よりもたった1年ここで働いている跡部
の方が明らかに社長として向いているようだ。

優秀過ぎる秘書。

16歳とは思えぬ働き振りで…。

そんな彼が、忍足にはとても眩しく見える。















「おい…手、止まってるぞ?」

何時の間にか忍足は書類ではなく、跡部の顔を真剣に見つめていたようだ。

「へ…?あ、すまん…」

突然指摘されたため、思わず素直に謝ってしまう。

普通な事かもしれないが忍足にしては珍しく、また跡部にとっては機械のように動いていた手をピタリと止め、忍足を
凝視してしまうほどの事だったらしい。

少し離れた場所にある秘書用の机で作業していた跡部が忍足に近寄る。

そして眉尻を下げていかにも心配そうに顔を覗き込む。

「お前…どうしたんだよ?具合でも悪いのか?」

素直に謝っただけでこの言い様はいささか失礼かもしれない。

だが跡部としては忍足の体調すら気遣うほどに驚いたのだ。

「あ…いやなぁ、体調は悪ぅないんやけど…」

「じゃあどうかしたのか?」

首を傾げ尋ねる。

普段はあれだけ忍足に対して文句ばかり言う跡部が不安気に聞いてくる様子は歳相応であり、可愛らしくもあり…。



ーホンマ、この子はわかっとらんのやな…



この1年間、結局跡部は忍足の気持ちに気付く事は無かった。

あんなにも仕事に不真面目だったのも、跡部をからかう言動ばかりだったのも。

全て彼を思うが故で…。

何人もの女と付き合い、百戦錬磨かと思われた忍足にありえない程の幼い気の引き方だ。

それは小学生が好きな子にちょっかいを掛けるのとなんら変わりは無かった。

我ながら情けない、忍足はこっそり溜息を吐いた。

「体調は悪ぅないで。…ただちょぉ疲れただけや」

とりあえず適当に言い訳をしておく。

誰が言えようか。

「お前に見惚れていた」などとは…。

その言葉を聞いた跡部はしゃがむ様にして忍足の顔を覗きこんでいた体を立ちあがらせる。

そしてそのまま隣室へと何も言わずに姿を消した。



ーもしかして呆れてもぉたかな…?



いつも迷惑を掛けて、真面目に仕事を始めたかと思えば跡部に見惚れ、疲れたなどと誤魔化す。

「好かれとるとは思わんけど…」

愛想つかされるんは嫌やなぁ。

深く溜息をつき、再び仕事に取り掛かろうと書類に手を伸ばした時。

隣室の扉がガチャと音を立てて開いた。

「何ブツブツ言ってたんだよ?」

慌てて先程の事を謝ろうと顔を上げた。

すると仄かに香る匂い…。

「お前が疲れたって言うから…コーヒー淹れてきてやったぜ」

ほら…、と言いながら跡部はカップの中身が零れない様そっと忍足の前に淹れたばかりのコーヒーを置く。

そしてその隣にはチョコレート菓子を2・3個…。

「疲れたときは甘いものを食べると良いんだぜ?」

忍足はその言葉に先程の自分の言った台詞を思い出した。

「え…わざわざ俺のために?」

「他に誰に淹れろっつーんだよ」

表情こそは無愛想だが、微かに頬を紅潮させている。

照れているのだろうか…それとも。

「…俺、景ちゃんに嫌われとるんやと思ぉとったんやけど?」

「はぁ?」

跡部はいかにも心外だ、とばかりに声を上げる。

「だってそうやろ?いっつも俺の事呼び捨てやし、態度も悪いし…」

てっきり自分の事が嫌いなんだと思った。

そう呟けば跡部はムッとした表情になる。

「…悪かったな。もともとこういう性格なんだよ」

「悪くは無いけどな、でも俺の事はどうでもえぇもんやと…」

「どうでも良い奴にコーヒーなんか淹れない」

…へ?

一瞬、忍足が固まる。

「…け、景ちゃん……それ、本当なんか?」

「お前の事、どうでも良いなんて思った事ねぇよ」

信じられなかった。

あんなに迷惑を掛け捲っていたのに…。




まさか…。



「どうでも言い奴の秘書なんて俺がするわけねぇだろ。…お前が社長だったから、だ」

その言葉に、忍足はどうしようもなく頬が緩むのを感じた。

「なぁ…景ちゃん」

「ぁん…なんだよ?」

高鳴る胸の鼓動を、口から出そうになる心臓を抑え、言葉を紡ぐ。

「あんな…、俺…景ちゃんのこと……」

「わ…っ!」

跡部の腕を掴み、引き寄せる。

バランスを崩した跡部が椅子に腰掛ける忍足の胸に倒れ込む。

「わ、悪ぃ…」

自然、抱き締められる形となった跡部が慌てて離れようとする。

しかしその離れていく細い体をがっしりとした腕で抱き締める。

僅かに鼻に届いた香りは跡部のものだろうか。

「お、忍足…社長……?」

跡部自身も混乱しているのか、思わず普段は使わない相手への言葉を出してしまう。

そんな跡部にますます興奮した忍足の顔がグッと近づく。

唇が触れ合う直前、吐息がリアルに感じとれた。




「跡部……」

「…ぁ」






瞼が、どちらからとも言わず…閉じられる。

























ガチャ



「社長ー、すみませんが此方の企画書にサインお願い致します」






「「!!?!?!」」







突然開いた社長室の扉に一瞬でお互いに距離をとる忍足と跡部。

二人共顔は真っ赤でお互いの視線から目を逸らしている。

扉の前には不思議そうに首を傾げる社員。

何とも言えない、微妙な空気が流れた。


























その後、忍足がぎこちない動作で企画書へのサインを済ますと社員は「では失礼致します」と笑顔で去って行った。

パタンと扉が閉まれば再び二人きり。

跡部は忍足から約2mほど離れたところで未だに俯いたまま立っている。

いつもの彼からは想像も出来ない様子に忍足は内心盛大な溜息を吐く。

あの時は思わず雰囲気というか流れというか…そのままキスを迫ってしまったが。

「(やっぱり急ぎ過ぎたみたいやなぁ…)」

無言の時が刻まれる度に後悔が押し寄せてくる。

話し掛けるのも躊躇われて、一歩も前に進めない。

どうしようか、と忍足が仕事では絶対に使わない脳を隅から隅まで駆使して考える。

すると跡部が突然、部屋を出て行こうと扉に向かって歩き出した。

「えっ…ちょっと待てや、跡部!」

引き止め様と椅子から立ち上がり追いかけ様と手を伸ばす。

「俺っ…今日はもう帰る!」

跡部の大きな声が忍足の手の動きを止めた。

どこか涙混じりの声に忍足の眉が寄せられた。

「…わかった、ほなまた明日な」

歪む唇を無理矢理に三日月のように端を吊り上げた。

心は月も映せぬ程に濁った沼のようになってしまったけれど。





ドアノブを捻り、廊下へと身を移動させる。

ふと動きを一瞬止め、背後の忍足を振りかえる。

忍足の背後にある大きな窓。

そこから見える茜色の夕陽よりも、もっと紅く顔を染め。

「俺…さっきの続き、されても嫌じゃなかったからなっ!!」

捨て台詞のように叫び、扉を閉める。

瞬間の出来事に呆然と忍足は跡部が先程まで居た扉を見つめる。

そして、顔を片手で覆い呟く。

「…嘘やん」










どうやら、若い社長と秘書の恋愛は始まったばかりのようだ。





















END




----------------------------------------------------------------------
●あとがき●

ようやくフリー小説UPです!
社長×秘書…書いている本人が一番面白かったですv
27歳の社長、忍足と16歳の秘書、跡部…犯罪ですね。(色々と)
でも想像すると可愛いですよね、11歳さの初々しいカップルv
あ、最後に。この設定を考えてくださった方、ありがとうございました。



※1周年記念FD小説なのでどうぞご自由にお持ち帰り下さいw報告してくださると嬉しいですv