CROSS... ~8~
彼に惹かれたのは何時だったのだろう。
今となっては、思い出せない。
とにかく、彼の優しい眼差しを自分の物だけにしたかった。
「忍足…、好きだ」
放課後、夕闇に包まれた秋のある日。
溢れ出す忍足への思いを耐え切れず、俺はずっと秘めていた想いを口にした。
腿の横で強く握った手が汗ばむ。
今の一言で忍足との関係が無くなるかもしれない。
良い友人、良いチームメイトで居られたのにそれでは足りなかった。
何処かぽっかりと開いていた心の穴。
それを埋めてくれるのは忍足しか居ないと思った。
だから…。
俺はきっと情けない表情をしているだろう。
不安に揺れる瞳をどうする事もできない。
目の前で黙ったままの忍足の動きに全ての意識が集中する。
ドクン、ドクン…。
心臓の音が五月蝿い。
1メートル程しか離れていない忍足にはもしかしたら聞えているのかもしれない。
どうしよう…。
断われたとしても…もしかしたら仲間として、友達として接することが出来なくなってしまうかもしれない。
沈黙が痛い。
いっその事、さっきの発言を取り消してしまおうか。
『さっきのは忘れてくれ、…これからも仲間で居てくれるか?』
そうだ、そうしてしまおう…。
緊張で先に走り出す跡部の感情はさっさとこの状況を終わらせようとした。
思ったとおりの事を言おうと、告白の言葉を言ってから閉ざしていた口を開いた。
「ぁ…あの…、さっきの…っ」
「…俺も好きやったで」
「………え?」
勢い良く唇から紡がれる筈だった俺の言葉は忍足の発言によって最後まで音となることは無かった。
俺は、何を言われたのかパニック状態だった思考回路からは直ぐに理解することが出来なかった。
忍足といえば、ポカンとした様子の俺の表情に思わず笑ってしまったのか口許を押さえて少し笑い声を漏らした。
「えっ…、忍足…?」
「もう一回言ったろか?」
突然のことで自分の耳が信じられなくなった俺に、忍足は唇の端を吊り上げ余裕の笑みを浮かべながら俺の体を抱
き締める。
思わず肩が跳ねる。
好きな人の、想い人のしっかりとした逞しい腕に囚われ、ますます混乱した。
「跡部のことが好きや。…ずっと、初めて会った頃から」
愛しとるんや…。
最後の言葉は、俺の耳元で。
低く響く声やその吐息でさえも感じられる距離で。
「…なぁ、泣かんといてや跡部」
「ばぁか、誰が泣いてるんだよ…」
「気付いてへんの?」
「…?」
忍足の長い、ゴツゴツした指が頬を下の方から目許辺りまで優しく撫で上げる。
そしてその指を俺の目の前までもってくる。
良く見れば、その指は濡れていて…。
「…あ」
目許に手をやれば、自分の目から涙が零れていたことに今更ながら気がついた。
慌てて雫を拭おうとすれば、忍足に手首を捕まれ止められる。
「擦ったらアカンよ。目ぇ赤くなってまう…」
途端、柔らかい羽が触れたのかと思った。
目許に感じた感触。
思わず目を見開けば、間近に忍足の顔。
そう、忍足は俺の目許に口付けていた。
「ぇ、あ…忍足っ?」
泣いていただけでも恥ずかしいのに、忍足に涙をそういう風に拭ってもらい俺の顔は有り得ないくらいに赤かったに違
いない。
忍足の肩を押し返し、離れようとする。
が、それも忍足の腕によって無駄に終わった。
「離れんといて…」
辛そうに吐き出された言葉が、俺の体を縛り付けた。
そのまま校門が閉まる直前まで、俺達は秋の夜空が見守る中でずっと抱き合い続けた。
俺達が付き合う上で、約束があった。
『誰にもこの関係を言わない事』
忍足は少し悲しそうにしたが承諾してくれた。
忍足には申し訳なかったが、俺達の関係は普通とは違うから。
俺が非難されるのは我慢できる。
けれども、忍足が俺と付き合っているせいで人から何かを言われるのだけは耐えれそうになかった。
俺は俺の考えや気持ちを伝えることは無かった。
高いプライドがそれを邪魔した。
始めは何も伝えずに居る自分が嫌だった。
でも忍足は大概のことは俺が言わなくても分かっている様だった。
だから、俺は安心していた。
そう…。
心というものは、相手には見えない事を失念していた。
言葉にしなければ、決して相手に伝わることはない…。
続
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●あとがき●
何ヶ月ぶりの更新でしょうか…;;大変お待たせいたしました。
これからは二人の過去のお話になってくると思います。
あと…3話ぐらいで完結になりそうです。
亀の歩みよりも遥かに遅い更新ペースですが最後まで見守ってくだされば光栄です…。

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