ピアス
朝、跡部が目を覚ますと忍足は隣で座っていた。
忍足のベッドは東の窓際にある。
今は窓が閉まっているがカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。
「おはようさん。よぉ眠れたようやね」
跡部が起きた事に気がつき顔を隣で寝転がっている向けにこ、と笑いかけた。
「あぁ…今何時だ?」
仰向けになったまま跡部は問う。
「6時…ちょい過ぎってとこやな」
チラリとケータイを見て答える。
「今日は日曜で部活休みやろ?のんびり出来るで」
「ん、そうだな」
何をするわけでもなく、跡部はぼぉっと忍足を見つめる。
「そないに見つめられたら照れるやんか〜」
「バーカ」
「うわ、酷いなぁ…せやかて跡部に見つめられたら嬉しいんやけど恥ずかしいんやって//」
苦笑いをしながら忍足は少し火照った頬を冷やそうと窓を開けた。
涼しい風がカーテンを揺らしさらに忍足の髪を撫でてゆく。
その時、忍足の耳元に小さく光った何かを跡部は見逃さなかった。
「……忍足」
体を起こして跡部は忍足に向って手を伸ばす。
「何や?」
「これ…」
跡部の手が忍足の少しクセのある髪に触れる。
くすぐったそうにする忍足の耳に跡部の視線が行く。
「お前、ピアスなんかつけてたか?」
指先で忍足の耳朶についているピアスに軽く触れる。
それは比較的シンプルなものだった。
「昨日から、やよ」
忍足は触れてきた跡部の手をとり自分の方に引き寄せ抱き締める。
「昨日なー、偶然引き出しの中から見つけたんや」
「新しいものじゃねぇのか?」
「小学の時になぁ…大好きやった担任の先生が転任される時記念に貰ったんや」
その頃を思い出すかのように忍足は照れくさそうに笑う。
ピクッ、と跡部の眉が動いたがそれには気付かない様子だ。
「…それ、女か?」
「せやよ。茶色でストレートの髪を腰まで伸ばしとって…ほんまに優しい先生でなぁ、男子は皆憧れとったなぁ」
「……」
「いつやったか…俺が転んで気がしたときに……」
恥ずかしそうにしながらも楽しそうに思いで話をしはじめる忍足とは裏腹に跡部は自分の心が冷めて行くのを感じた。
忍足の顔を見れば分かる。
彼もきっとその先生に憧れの気持ちを抱いていたのだろう。
もしかすると…いや、きっとそれよりもそれは強い気持ちで……。
「…帰る」
ベッドから起き上がりそこら中に放って置いた制服を掻き集め着替える。
学校帰りにそのまま泊まっていたために教科書の入っているテニスバックを担ぐ。
「え、急にどないしたん!?」
案の定、忍足は慌ててベッドから降りて跡部の腕を掴む。
「なぁ、俺…跡部を怒らすようなこと言った?」
腕を掴む力がぐっ、と強くなる。
跡部は思いきりその腕を振り払う。
そして忍足を睨み叫ぶ。
「…ッ、他の女との思い出を楽しそうに話すんじゃねぇ!!」
「…え?」
跡部の口から出た言葉に忍足は目を丸くする。
「だから!他の女の話をするんじゃねぇって言ってんだよっ!!」
空色の瞳が薄っすら潤み、今にも雨が降り出しそうで……。
「それ…っ、そのピアスがお前に触れてるのも気に食わねぇ!!」
顔を忍足の視線から逃れるように逸らす。
そしてそのまま玄関に走って行こうとした。
しかしそれは寸前のところで忍足の腕によって阻まれた。
「ッ離せよ!!」
ジタバタと暴れる跡部を両腕でしっかりと抱く。
細い手首を掴み、自分の耳へと引き寄せた。
「なぁ跡部、このピアス…跡部が外してくれんか?」
雨に濡れ荒れていた青に光が戻る。
「これ、嫌なんやろ?俺も懐かしくてつけただけやったし」
外しても構わんよ。
指が小刻みに震えゆっくりとピアスを外す。
跡部の手の中にあるピアスを奪い、ベッド脇に置いてあったゴミ箱へと放り投げた。
それは綺麗な放物線を描きこつん、と音を立てて落ちた。
「…今度新しいヤツ、代わりに買ってくる」
忍足の服を両手でしわになる程に握り、胸に顔を埋めて来た跡部の髪を優しく撫でる。
「せっかくやし…午後から行かへん?」
「……行く」
「ほな、まだ時間あるしもう一眠りしよか」
「ん…」
擦り寄ってきた跡部の腰に手を回し、ベッドへと戻る。
そしてまだ互いの温もりが残る中へと身を委ねた。
次の日、忍足の耳朶には真新しい銀色のピアスが輝いていた。
END
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●あとがき●
記念なのに何故喧嘩してるんでしょうか…。駄目じゃんよ。(苦笑)
とりあえず嫉妬深い乙女跡部がテーマです。(ぇ)
※FD小説なのでどうぞご自由にお持ち帰り下さいw

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