An Only Present




















運悪くその日は火曜日だった。

金曜日や土曜日、日曜日が彼の誕生日だったのならば泊まり込みでしっかりと祝ってあげれたのに…。

そう、彼の誕生日に忍足は跡部に告げた。

すると、思っても入なかった言葉が跡部の口から零れ落ちる。



「だったら、今日お前の家に泊まりに行く」



一瞬、あまりの都合の良い展開の為に忍足はポカンと間抜けに口を開いたまま固まってしまった。

けれどもすぐに嬉しそうな笑みを浮かべると快く返事をした。












その日の学校帰り。

3年生で引退した彼等は部活に寄る事もなく、授業が終わってすぐに忍足の住むマンションに行く事になった。

忍足は跡部の教室まで軽い足取りで向かった。

「け〜ちゃん!迎えに来た…で……」

ガララ、と勢い良く教室の扉を開くと忍足はそのまま固まってしまった。

何しろ教室中がプレゼントの山、山、山…。

その山の中に埋もれるようにして立っていた跡部が忍足に気が付くとプレゼントを掻き分け忍足の傍まで来た。

「…遅い」

不機嫌そうに頬を膨らませ忍足を見上げる跡部。

だが、そんな可愛らしい跡部の表情も目に入らないぐらいに忍足は今目の前に広がる山に驚いていた。

色とりどりのラッピングがしてあるそれらはどう見ても跡部に送られてきたモノで…。

「なぁ、これ…どうするんや?」

「…さっき電話したからきっと家まで運んでくれるだろ」

適当な返事をし、扉の前で立ち尽くしている忍足の横を通り過ぎ廊下に出る。

忍足も慌ててその後を追おうとした。

しかし、その動きがあるプレゼントの山の一点に目線が言った時ピタリと止まった。

思わず忍足はソレを手にして、ゆっくりとその包みを剥ぎ、箱を開く。

「あ……」

そこに現われたモノは、銀とエイ皮で出来たゴシック調のデザインのシルバーブレスレット。

シンプルだがとても美しい造りであり、どこか気高さが漂っている。

それだけなら、まだ良かった。

忍足はこのブレスレットに見覚えがあった。

それは先日の事。

実は忍足も跡部の誕生日プレゼントにと、同じモノを買っていたのだった。

その時は忍足自身、跡部にとても良く似合いきっと気に入ってくれるだろうと思い買ったのだが…。

急激に気持ちが冷めていくのが分かった。

「…同じもんは、二つもいらんよな」

ポツリと呟くと忍足はそのブレスレットを元の箱に戻してそのまま机の上に投げ置き跡部の後を追った。




























マンションまでの道のりは、徒歩ならば意外と距離があるように感じる。

しかも今日は…。

「……。」

「……。」

ずっと、会話が無い。

というよりも、忍足の機嫌が妙に悪いのだ。

跡部は居心地の悪いこの空気の中、何も話し掛ける事も出来ずに川の流れる道まで来てしまった。

今日跡部を家に誘ってきたのは忍足なのに。

とても嬉しそうにしていたのに。

どうして…。

そんな思いがグルグルと頭の中を回る。

話し掛け難い。

けれども、このままマンションに行っても重苦しい空気は変わらないかもしれない。

跡部は固く閉ざされていた唇を何とか開いた。

「…なぁ、何でそんなに機嫌悪いんだよ」

やっと出てきた言葉は直球。

元々オブラートに包んで言う気もなかったのだろうが…。

忍足は跡部の問い掛けに足を止めた。

忍足の少し後ろを歩いていた跡部は思わず背中にぶつかりそうになるも何とか留まる。

そして隣に並び少し高い位置にある目をじっと見つめた。

すると、しばらくして忍足は自分の鞄から小さな箱を取り出した。

濃い青色の包装紙に英文がいっぱい書かれている。

リボンは黄色。

掌に収まるその箱のラッピングを忍足は少々乱暴に取った。

ビリビリに破れた包装紙とリボンがアスファルトに落ちて行く。

その様子を跡部は呆然と見ていた。

全てのラッピングを取れば、中にあったのは小さな箱。

忍足はそれをも乱暴に開き中から銀色に輝くブレスレットを取り出した。

「これ。…跡部の誕生日プレゼントのつもりやってん」

「つもり…?」

小さく呟かれた言葉に疑問を感じ、思わず聞き返す。

忍足は唇を歪ませる。

もしかすると、笑みを作ろうとして失敗したのかもしれない。

どこか、怒りと悲しみが混じった表情だった。

「あんな…コレと同じブレスレットをプレゼントした奴が居んねん」

何、と聞こうとしてふと教室にあったプレゼントの山の中に確かに忍足が乱暴に破ったラッピングと同じモノがあったよ
うな気がした。

きっとその中身を忍足が見たのだろうと予想がついた。

「結構真剣に選んだんやけど……他の奴と同じモノあげるんは嫌やし」

「別に…」

俺は気にしない。

そう続くはずだった言葉は途切れた。

代わりに…。


「ッ!?何するんだ…!!」


驚愕した跡部の表情と声。

跡部の目線の先には取り出したブレスレットを川に向かって投げる忍足の姿が映った。

跡部の叫び声とブレスレットが川に落ちた音はほぼ同時だった。

呆然とブレスレットが落ちた川を見つめる跡部に忍足は苦笑いを浮かべる。

「ごめんな?今度違うの買うから…」

そう言って忍足はまたマンションの方に歩き出す。

ただ、跡部は忍足が足を動かしてもその場から動かなかった。

どうせすぐ追いつくだろう。

そう思って忍足はドンドンと足を速める。

振りかえろうとしなかった。

ブレスレットには未練も何もない、その忍足の気持ちを表わしているかのように。

だから跡部の瞳が、月光に寂しそうに揺らいでいるのに気付かなかった。




























百数十メートル歩き、全く後ろから跡部の足音が聞えてこないことに気が付いた。

おかしい、とようやく感じて忍足は振り返った。

そこには暗い道しかない。

道の先は、十数メートルしか見えない。

「…景ちゃん?」

声を掛けても全く答えがなかった。

忍足は慌てて来た道を戻って行く。

迷子か、誘拐……それとも絡まれて居るのだろうか。

そんな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。

「景吾、…景吾!!」

狂ったかのように名前を呼び、足でひたすら地面を蹴る。

しばらく行くと、どこからか水音が聞えて来た。

もう少し、先の方だ。

川のせせらぎではない。

魚の跳ねる音でもない。

もっとこう、人工的な…。

「……まさか…」

一つ、思い当たる節があり忍足は水音のする場所まで走った。


































「…ない」

そこの見えない、闇のような水面を見つめて跡部は呟いた。

足が、冷たい。

段々と感覚が無くなっていくかのようだ。

膝上まで制服のズボンを捲ったが意味がなかった。

何故なら川は思いの他深く、跡部の股よりも少し下まで水嵩があったから。

ズボンは水分を含んでいく。

腕も川に突っ込んでいたから、Yシャツも水分を含んでいる。

飛沫が掛り、跡部はほとんど濡れていた。

10月の川は、冬ほどではないにしろとても冷たい。

跡部は徐々に冷え、震える体を川の中で懸命に動かしていた。

「ない…、…ない……」

首を振り、周囲を見渡す。

けれども見えるのは闇と、月光、それに反射した水面だけ。

溜息をついたその時、視界の端で何かが輝いた。

その輝きの方向を見ると、本当に薄っすらだが、何かが輝いている。

「もしかして…」

跡部は最後の期待を込めて、腕をそっと水の中に入れて底を漁ろうとした。

指先を小さく動かして見れば硬いモノが当った感触があった。

「…っ、もう少しだ」

中指の先で感じた感触を人差し指でも探る。

そして形を確認し、引き上げた。



…それと、同時だった。








「何やっとるんや、景吾っ!!」









突然近くで聞えた忍足の声に慌てて跡部が振りかえった。

その拍子に、思わず足が滑らせ…。


「っ、あ…!?」


派手な水飛沫を上げる。

跡部の体はそのまま川の中に吸い込まれるように、消える。



「景吾ーっ!!」





叫び、必死に忍足は手を伸ばす。

川の中に跡部の腕が消える直前。

忍足のその手が、跡部の腕をしっかりと掴んだ。

その腕を自分の方へと引き寄せ川に沈んでいた体を自らの腕の中へと戻した。


















「う…っ、けほ…けほっ!」

川に流されずに済んだものの、幾らか水を飲み込み、気管に入ったために咽ている跡部の背中を優しく叩く。

しばらくしてようやく落ち着いて来た跡部の頬を手で包み込み、忍足は思いきり睨みつけた。

「阿呆!この川は毎年何人も溺れ死んどるんやで!?危ない事するなや!!」

酷く真剣な声で忍足は怒鳴る。

その声は少しだが震えていた。

「お前が、コレを捨てるからこうなったんだ…」

頭ごなしに怒鳴る忍足に思わず跡部が右手で作られた拳を突き出して反論する。

その拳をそっと忍足の目の前で解いた。

「…ブレスレット?」

跡部の手にあったもの。

それは確かに忍足が先程投げ捨てたばかりのブレスレットだった。

「これ、探しとったんか?」

尋ねれば跡部は小さく頷いた。

「こんなもん…、もっと別の買ったるって言うたやんか」

寒さで震える手を忍足の手が包み込んだ。

首を横に小さく、それでもしっかりと跡部は振った。

「同じプレゼントでも良い。…侑士は俺に似合うだろう、喜んでくれるだろう、って真剣に考えて選んだんだろ?」

そう、上目遣いに忍足を見つめる。

全身ずぶ濡れになってしまった跡部。

髪の毛は、白い…今は寒さのせいで青白くなった頬に張り付き、瞳は濡れていた。

どこか煽情的なその姿に思わず忍足は唾を飲み込んだ。

「…あぁ。当たり前やろ。真剣に選んだで」

「…このブレスレットを選んでくれてた時は、俺の事だけ考えてくれてた。その気持ちが嬉しいんだ」

満足そうに、微笑んだ。

手の中のブレスレットを再び両手で握り締め、唇に寄せた。

その跡部の様子を見て、忍足は本当に跡部が喜んでくれていた事を知った。

「ほな、遅くなってしもたけど……これが俺から跡部へのプレゼントや。受けとってくれる?」

「あぁ…、ありがとう」

その言葉が、本当に忍足には嬉しくて…。

思わず、強くきつくその体を抱き締めた。

川に浸かり冷えた跡部の体に自分の体温を渡すかのように、熱い抱擁を…。



そして…。













「Happy Birthday…、景吾……」












冷たい筈の川でのキスは、どうしてかとても熱く。


思わず、涙が頬をつたり零れ落ちた。













ありがとう。

ありがとう。


…おめでとう。






大切な、愛する貴方へ…。



この世に二つとない…俺の気持ちを捧げます。



















〜終〜



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●あとがき●

跡部様、お誕生日おめでとうございますーっ!!w
いやいや、本当におめでたい!!
何とかお祝い小説も間に合って良かったですv
急いで書いたんで文章が何時も以上に変かも;
それでも愛情だけはありえないくらいに(?)詰まってるんで!!
とりあえず、生まれてきてくれてありがとう…跡部!(というか許●先生/笑)


※ちなみにこの小説はFD小説なのでどうぞご自由にお持ち帰り下さいw
 連絡は不要ですが…してくださると嬉しいです!
 サイト掲載も全然OKですが異界が書いたことは明記しておいてください。